極上御曹司の独占欲を煽ったら、授かり婚で溺愛されています

　彼は将来、この会社のトップに立つ人。そんな人の隣に立つに相応しいのは、早乙女さんのような人だ。私なんかが立てるわけがない。

　弁当屋で出会った村瀬さんは、住む世界が違う人には見えなかった。自分の勤める会社の御曹司ということも、後になって知ったし。それに『さくらちゃん』と呼ばれ、話す機会が増えてデートに誘われたりして……自惚れていた。

　村瀬さんも私と同じ気持ちなのかもしれない。いつか、彼と恋人になれる日がくるのかも……なんて夢見ていた自分が、本当に滑稽に思えてならない。

　呆然と立ち尽くしていると、早乙女さんたちが「もうお腹いっぱい」と言いながら、次々と立ち上がった。

　慌てて一度拭いたテーブルを拭きながら、「ありがとうございました」と彼女たちを見送る。
　だけどいまだに動揺していて、私の手は震えていた。

　だめだ、気を緩めたら泣きそう。仕事中なんだから、さっき聞いた話は一度忘れよう。

　そう何度も自分に言い聞かせて、空になった料理の容器を下げていく。だけどずっと頭の中から離れてくれない。

　最後の客を見送り、片づけを終えてみんなと昼食を取っている間も……。