極上御曹司の独占欲を煽ったら、授かり婚で溺愛されています
「ねぇ、大。この先、なにかあったら頼ってもいいかな?」

 大好きな村瀬さんへの恋心を断ち切るには、相当時間がかかると思うし、落ち込むだろう。その時は大を頼ってもいい?

 その思いで聞くと、すぐさま大は力強く答えてくれた。

「あたり前だろ? なにかあったらすぐ俺に言え。力になるから」

 迷いなく言ってくれた言葉に、せっかく止めた涙が再び零れ落ちた。

「ありがとう……」

「……っ! そう言うなら泣かないでくれよ。……周囲の視線が痛い」

 ボソッと付け足し言われた一言に周囲を見渡せば、何事かと商店街のみんなが私たちの様子を窺っていた。

「明日には商店街中に知れ渡るよ。俺がさくらを泣かしていたって」

 がっくりする大には申し訳ないけれど、笑ってしまった。

 村瀬さんとの恋は成就しなくても、私は大丈夫。大好きな仕事がある。心強い仲間に家族がいる。それに本当に子供のように可愛がってくれる商店街のみんなだっている。

 悲観的にばかりならず、真っ直ぐ前を向こう。



 それから十日後。惜しまれつつ両親は弁当屋を閉めた。そして次の日にはおじいちゃんの住む栃木へと引っ越していった。

 私もまた、商店街の一角にあるアパートに引っ越し、初めてのひとり暮らしの生活をスタートさせた。

 村瀬さんが中国から帰ってくるまであと三週間。叶うならば、最後にもう一度会いたかったな。

 彼に笑顔で『さくらちゃん』と呼んでほしかった。
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