極上御曹司の独占欲を煽ったら、授かり婚で溺愛されています
 周りが俺の結婚を急がせる中、山浦さんだけは違った。『副社長のお気持ちが最優先なので』と言って見守ってくれている。

 迷惑をかけた分、仕事で返したい。

 それからは集中して仕事にあたり、定時で会社を後にした。



「やっぱり開いていないよな」

 昨日閉店の張り紙を見たが、どこかでまだ信じられずにいた。でも一日経ってからこうしてシャッターが閉じられている店を見ると、本当に閉店したんだと嫌でも実感させられる。

 呆然と張り紙を眺めていると、五十代くらいの男性に声をかけられた。

「なんだ、兄ちゃん。猪狩さんところの常連さんだったのかい? 残念だけど、四月で店を畳んじまったんだ」

 事情を知っていそうな雰囲気だ。

「あの、どうして急に店を閉めたのか、ご存じですか?」

 少し緊張しながら聞くと、男性はすぐに教えてくれた。

「猪狩さんの父親が病に倒れたようでな。栃木の実家に戻ったんだ。なんでも父親が長年経営していた食堂を継ぐとか……。店を畳んだ次の日には引っ越していったよ。なんせ急だったから、猪狩さんから事情を説明してくれって頼まれているんだ。兄ちゃんのように常連客が知らずに訪ねてくるからね」

「そう、だったんですか……」
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