極上御曹司の独占欲を煽ったら、授かり婚で溺愛されています
 話を聞いて納得がいった。出張に出ていた二ヵ月の間に、なぜ店を閉めたのか。

 そういう事情があったなら仕方がないことだ。……でもそうか、栃木に。

 きっとさくらちゃんも一緒に行ったんだよな? 家族三人で店を切り盛りしていたようだったし。

 彼女の存在が、ご両親を支えているのかもしれない。

「ありがとうございました」

「え、もういいのかい?」

「はい、事情はわかりましたので。本当にありがとうございました」

 まだ話し足りなそうな男性を残し、重い足取りで商店街を進んでいく。

 さくらちゃんは、会うたびに笑顔で出迎えてくれた。些細なことしか話していないのに楽しくて、一緒にいると自然と笑顔になれる相手だった。

 俺の言葉ひとつでコロコロと表情を変える彼女。心のどこかで同じ気持ちだと思っていたが……違ったのだろうか。

 何気ない日常の中で出会った彼女は、運命の相手だと勝手に浮かれ過ぎていたのかもしれない。

 アーケードを抜けて駅前通りに出ると、通りかかったタクシーを止めて乗り込んだ。
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