極上御曹司の独占欲を煽ったら、授かり婚で溺愛されています
 冷静に考えると、さくらちゃんが優しく接してくれたのは、俺が客だったからじゃないか? デートに関しても、常連客の俺に誘われて断れなかっただけかもしれない。あの時、ご両親にも色々言われていたし。

 それにさくらちゃんは、俺の仕事のことは知らない。どういう立場にいるのかも。

 たとえこの先、さくらちゃんと想いが通じ合い、一緒になる未来が訪れたとしても、俺は彼女を幸せにすることができるのだろうか。

 これまで母さんが一般家庭から嫁いできたという理由だけで、さんざん苦労しているところを見てきた。

 母さんと同じ苦労を、さくらちゃんにさせてしまう可能性もあると思うと、胸を張って幸せにすると言える自信がない。

 だったらもうこのままさくらちゃんとは、会わないほうがいいのかもしれない。時間が経てば、彼女への恋心を消すこともできるだろう。

 だけどできることなら、最後にもう一度彼女に会いたかった。さくらちゃんが作ってくれた厚焼き玉子も、食べたかったな。

 叶わぬ願いに乾いた笑い声が漏れ、窓ガラスに映る自分はひどく落ち込んでいた。

 本当にさくらちゃんのことを、忘れることなどできるのだろうか。今はその自信がない。

 行き場のない想いを抱えながら家路に着いた。
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