極上御曹司の独占欲を煽ったら、授かり婚で溺愛されています
「私も商店街の方々から話を聞いた時は、耳を疑ったのですが……。彼女は昨年、管理栄養士として入社しておりました」

 嘘だろ、さくらちゃんがうちの会社の社員だったなんて。

 急いで封筒を開けると、今より少し幼いさくらちゃんの顔写真とともに、彼女の名前や住所、配属先まで事細かに記されていた。これを見たらもう信じるしかない。

 すると次に、ある疑問が浮かび上がる。

「さくらちゃんは……俺のことを知っていたのでしょうか?」

 もしかして、最初から知っていたのだろうか。俺が自分の勤める会社の副社長だと。

「どうでしょう。……ただ、副社長は昨年の入社式には出席しておりませんし、彼女の配属先は一般職とは違い、重役とは無縁です。知らなかった可能性もありますが……」

 そこまで言うと、山浦さんは言葉を詰まらせた。

 山浦さんが言いたいことはなんとなくわかる。自分の立場をよく理解しているつもりだ。残念ながら肩書きにつられ、俺自身を見ようとせず近づいてくる女性は、昔から後を絶たない。

 でも、さくらちゃんは違う。……いや、違うと思いたい。肩書きなど関係なく、ひとりの人間として見てくれていたと。

 時計を見ると十二時半になろうとしていた。
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