極上御曹司の独占欲を煽ったら、授かり婚で溺愛されています
　少しして開いたドア。視線を向けると山浦さんの後ろにさくらちゃんがいて、思わず立ち上がってしまう。

「さくらちゃん……」

「……村瀬さん」

　彼女もまたポツリと俺の名前を呟いた。

　聞きたいことはたくさんある。だけどずっと会いたかった彼女が目の前にいる。そう思うと、ただ嬉しくて一歩、また一歩と距離を縮めていく。

　だけどその度に、不安げでどこか怯えた様子を見せる彼女に足が止まり、ざわざわと胸が騒がしくなる。

　やはりさくらちゃんは、最初から俺のことを知っていた？　だからこの会社で働いていることを、話してくれなかったのか？　だったらなぜ？

　疑問は膨れ上がり、目を伏せる彼女をジッと見つめてしまう。

「では、私はここで。失礼します」

「あ、ありがとうございました」

　お礼を言うと、山浦さんは丁寧に一礼して静かに出ていった。

　午後は雑務の合間、ずっとさくらちゃんに会ってからのことを考えていた。まずは自分の気持ちを伝えて、それから彼女の話を聞かせてもらい……。そうシミュレーションしていたのに、実際に彼女を目の前にしたら、頭が真っ白になる。
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