My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 4
王子はやっぱり私の正体を知っていたのだ。
(まさか、あの時の会話全部聞かれていたなんて)
その事実に愕然としていると王子はなんだか楽しげに続けた。
「そうそう、そのことについてももっと訊きたいと思っていたんだ。勿論他の皆には秘密にする。話してくれるな?」
「えっと、その……」
ここまでバレてしまっていて、今更何を躊躇する必要があるのか。王子は他の皆には秘密にすると言ってくれている。単に興味本位で、ランフォルセ王のように私の力を利用しようとか、そういう考えがあるわけではなさそうだ。
なのに、ラグの怒った顔がちらついて離れない。
(だめだだめだ! ちゃんと自分で考えなくちゃ)
私は彼を振り切るように頷き、答えた。
「わかりました」
「そうか! ありがたい。しばらく退屈しないで済みそうだ」
その嬉しそうな笑顔に小さく驚く。
そんな顔をこちらに向けてくれたのは初めてな気がした。きっとノービス一家の中ではいつも見せていた表情。
でも、そこで私は思い切って言う。
「そのかわり、その笛のこともう一度考え直してくれませんか?」
途端、笑顔がつまらなそうな顔に変わった。
「まだ言うか。さっき変える気はないと言ったはずだ」
「でも、多分ドナがここに居たとしても同じことを言ったと思います」
少しずるいかとも思ったけれど、彼女の名を出すのが王子には一番効く気がした。
案の定、王子は唇を曲げ思案するような表情を見せた。そして。
「……考え直すだけだ。変わらなくても文句言うなよ」
その答えに思わずガッツポーズしそうになる。
「はい! ありがとうございます!」
お礼を言うと、王子はふんと鼻を鳴らしそっぽを向いた。