My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 4

(さっきの話と言い、本当に王子はドナのことが好きなんだなぁ)

 ドナの照れた顔を思い出して目を細めていると、王子の視線が戻ってきた。

「お前はどうしても帰りたいのか?」
「え?」
「元の世界にだ」
「はい。帰りたいです」

 はっきりと答える。それが目的でここまで来たのだ。
 なんだか意味深な瞳で、王子は続けた。

「もし、帰れなかったら?」
「え……」
「帰れなかったら、どうするつもりなんだ?」

 急にそんなことを訊かれて激しく戸惑う。

 これまで帰ることだけを考えてきた。
 帰れなかった場合のことなんて考えたことがなかった。

 ――違う。無意識に、考えないようにしていた。

 このままずっとエルネストさんの元に辿り着けなかったら?
 辿り着けるまでずっと、私は旅をするのだろうか。

(一人になっても? ……おばあちゃんになるまで、ずっと?)

 そう考えた瞬間、途方もない暗闇に呑み込まれたような感覚に襲われた。

「考えてなかったのか?」

 私は足元に視線をやりながら小さく頷く。

「そうか……いや、もしそうなったら、ドナの侍女になってもらえないかと思ったんだ」
「え?」

 顔を上げる。
 王子は極真剣だ。

「僕が王になって、ドナを迎えに行ったらドナはこの国の王妃になる。きっとしばらくは慣れない生活を強いることになると思う」

 苦しげに唇を噛む王子。

 ――確かに、そうかもしれない。
 ドナにとったら、いきなり全く違う環境に入ることになるのだから。

 そのときふと気が付く。

(そっか、王子も昔そうだったんだ)
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