My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 4
それから間もなくしてノックの音が聞こえ、遠慮がちに扉が開かれた。
「セリーン、カノンちゃん、入っていいか?」
「もう終わったんですか?」
顔を覗かせたアルさんに驚く。
その後ろには王子の姿もあった。
「フォルゲンさん達に会えましたか?」
立ち上がって訊くと、アルさんは王子を中に入れてから扉を閉め頷いた。
「あぁ。驚いたぜ、フェルク人なのな。俺が術士だって言ったら向こうも驚いてたけどさ」
軽く笑いながら言うアルさん。
「皆の前で公言したのか?」
「いや、その二人にだけだ。その前に殿下がさ」
「医師たちにはもう帰っていいと告げてきた」
アルさんの後を王子が平然と続けた。
「え!?」
私は慌てる。
フォルゲンさんたちが帰ってしまったら話すチャンスが無くなってしまう。
それに、そんなにあっさりと大事なことを決めてしまっていいのだろうか。
「皆相当に疲れている様子だったからな。長い者は一月も前から城に滞在しているらしい」
溜め息交じりに言う王子を見て小さく驚く。
(ちゃんと、お医者さんたちのこと考えてのことなんだ)
……そういうことなら仕方ない。こちらからフォルゲンさんたちの診療所に赴いてもいいのだから。
同時に街でのことを思い出した。
「そういえば、街の人たち困っていました。お医者さんが全くいなくなってしまったって」
すると王子は心底呆れたようにもう一度息を吐いた。
「当たり前だ。全く、何を考えているんだプラーヌスの奴は」
「あの人もあの人なりに王様を助けるために必死なんじゃないですか?」
アルさんが苦笑しながら言うと王子はふんと鼻で笑った。
「どうだかな」
と、その時もう一度ノックの音がして王子は口を噤んだ。
「はい?」
アルさんが返事をすると、「お食事をお持ちしました」 と女性の声が聞こえてきた。
「さて、では戻るか」
王子がアルさんに言うのを聞いて、あれ?と思う。
「あの、ア……デイヴィス先生の食事は」
「僕の部屋へ運ぶように言ってある」
「また後でな!」
王子が扉を開けると、廊下にいた私とそう年の変わらなそうな女の子は慌てたように場所を開け深く頭を下げた。
王子はそんな彼女に「ご苦労」 と短く声を掛け、アルさんと共に部屋を出て行った。