My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 4
「お前、名はなんというんだ?」
「あ、私、華音っていいます」
そういえば自己紹介がまだだったことに気が付く。
(私の名前は別に隠す必要ないもんね)
「カノンか。カノンもデイヴィスと同じパケム島出身なのか?」
「えっと、違います。私はもっと遠くの田舎の出で……」
「カノンもデイヴィスのような術が使えるのか?」
「い、いえ、私は使えないです。単なる助手でして」
「そうなのか。――あ、あったぞ! あの花だ」
繋いでいない方の手で花壇を指差し王子は足を速めた。
手を引かれながら、なんだか良心が痛んだ。
(名前以外は全部嘘だもんね……)
私たちは身分を偽ってここに居る。
お兄さんが連れてきた医師一行ということでデュックス王子も絶対的な信頼を置いてくれているのだろうけれど。そんな純粋な彼に嘘を吐いていることが心苦しかった。
「お、こっちのほうがたくさん咲いているな。よし、カノン摘むぞ!」
「はい!」
王子は私から手を離し、黄色の花が咲き乱れる花壇の前に腰を下ろした。