My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 4
「おや、あんたたちは……」
王子の部屋へと続く廊下を歩いていると、後ろからそんな声がかかった。
え、と振り返るとそこにいたのは厨房で王子と話していたあのエプロン姿の女性だった。
彼女がにっこり笑ってこちらにやってくる。
「確か、殿下が連れてきたお医者さまだね。あんたたちも殿下に用事かい?」
「はい。あ、でも私たちはただの助手で……」
そう答えながらも私の目は彼女の持つトレーに乗ったふたつのグラスに釘づけになっていた。
「あの、もしかしてそれティコラトールですか?」
グラスの中の泡立った黒い液体を見ながら訊くと彼女はあぁと頷いた。
「そうだよ。あ、ひょっとしてあんたたちも飲むんだったかい?」
「あ、いえ、私たちは大丈夫です」
笑顔で両手を振る。
(本当はちょっと飲みたかったけど)
きっとアルさんは大喜びするだろう。やっと念願のティコの飲み物を口に出来るのだ。