My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 4
と、セリーンが申し訳なさそうに続けた。
「忙しい中すまなかった。それを欲しがったのはうちの医者でな」
「いやいや、構いやしないよ。ツェリウス殿下のあんな我儘を聞くのは久しぶりだったからね。実は少し嬉しかったんだ」
そう言って彼女は笑った。
「よっぽどあんたたちがお気に召したんだろうね」
「だとしたら光栄なのだが」
セリーンが穏やかに答える傍ら、私は王子の我儘が久しぶりと聞いて小さく驚いていた。
(お城の中でもいつも我儘言い放題なのかと思ってた)
そんな失礼なことを考えていると、彼女は私たちの背後――王子の部屋の方を見つめた。
「これまで、寂しい思いをたくさんしてきた方だからね……」
憂いの表情。なんだか母親が子供を案じているかのようだ。
寂しい思い……この人はきっと、これまでに色んな王子を見てきたのだろう。
「でもさっきあんたたちと一緒にいる殿下を見て安心したよ」
こちらに視線を戻した彼女は再びにっこりと笑った。
「それじゃあ、殿下とお医者さまの元へこれをお届けしようかね」