My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 4
「それで、お前たちは?」
王子の不機嫌な声に慌てる。ずっと扉を開けたまま話し込んでしまっていた。
「すみません、あの」
扉をしっかりと閉め、改めて笛の件をお願いしようとした、そのときだ。
「ぅ、ぐっ!?」
不意に上がった苦しげな声にどきりとする。
見るとソファに座ったアルさんが口元を押さえ、そのまま激しく咳き込み始めた。
(え……?)
単にむせたとかそんな咳き込み方じゃない。
彼の前のテーブルにはティコラトールの入ったグラスと、そして空になったもうひとつのグラスが倒れていた。
「まさか、毒か!」
「!?」
後ろから聞こえた切迫した声に青ざめる。
あのティコラトールは、アルさんと、そしてツェリウス王子に用意されたもの。
“暗殺”――そんな単語が脳裏に浮かんだ。
「げほっ、げほっぐ……ぅっ!」
「早く吐き出せ!」
足が震えて動けない私の横をすり抜け、セリーンがアルさんの元へと駆け寄る。
と、そんな緊迫した空気の中大きな溜息が聞こえた。
「全く、大げさだな」
王子が呆れたようにアルさんを見ていた。
「で、でも毒が!」
「毒なんか入っていない。それがティコラトールだ」