My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 4

 王子の冷静な言葉に、アルさんの傍らに寄り添っていたセリーンも顔を上げた。

「どうせ一気に飲み干そうとしたんだろう。そんな飲み方をすれば誰でもそうなる」
「えっと、……どういうことですか?」

 今もアルさんは体をふたつに折り苦しそうに咳き込み続けている。

「試しに飲んでみればいい」

 王子がテーブルの上を指差し、セリーンは訝しげにまだ残っている方のグラスを手に取った。香りを確認してから口を付けすぐに彼女は顔を顰めた。

「なんだこれは。辛いぞ」
「辛い?」

 てっきり甘いホットチョコレートのような飲み物を想像していた私は驚く。
 きっとアルさんも同じ想像をしていたに違いない。

 と、ようやく彼は顔を上げ、完全に涙目で言った。

「で、殿下、これ、ほんとにティコ、っすか……?」

 その声は可哀想なくらい掠れてしまっている。
 あぁ、と平然と頷く王子。

「この国でティコと言ったらソレだ。僕は儀式のとき以外飲もうとは思わないが」

 ……確かに、クラヴィスさんがそんなことを言っていた気がする。

「そんなぁ~、ごほっ」
「紛らわしいっ!」

 怒声を上げてセリーンが立ち上がった。
 そのまま鬼のような形相でこちらに戻ってくる彼女を見て、あちゃーと思う。
 アルさんは今ティコのことしか頭にないのだろう。セリーンが心配して寄り添ってくれたことなど気づいていない様子だ。

(でも、毒じゃなくて良かった~)
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