My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 4
そのままもう一度回廊を曲がり、書庫の入口、そしてその前に立つクラヴィスさんの姿が見えた。
「カノンさん。どうしました?」
一人駆けてきた私を不思議そうに見るクラヴィスさん。
その顔を見て、少しほっとする。
「クラヴィスさん! あの、ラグまだ中ですよね」
「はい。あれから出てきていませんよ?」
「あの、実は……」
小声で事情を話すと、彼は目を見開いた。
「それは本当ですか。どうぞ中へ」
そう言って彼はすぐに扉を開けてくれた。
私は再び塔の中に入り、螺旋階段の中心まで進んで天を見上げる。
背後で扉が閉まるのを確認して、私はお腹にいっぱいの息を吸った。そして。
「ラグーー!!」
その声は塔の中に大きく反響した。
螺旋階段を上っている時間が勿体なくてこうしたけれど、彼はすぐにあの書庫から出てきてくれるだろうか。
緊張を覚えながら吸い込まれそうな螺旋の中心を見上げていると、少し間をあけて人影がこちらに身を乗り出すのがわかった。
――出てきてくれた!
私は再び両手でメガホンを作り、声を張り上げた。
「アルさんが大変なの! お願い、一緒に来て!」
するとすぐにその人影は引っ込み、続いて階段を駆け下りてくる足音が聞こえてきた。
ほっと安堵して、でもその近づいてくる足音に次第に落ち着かなくなってくる。
先ほどの彼の言葉と自分の怒声とが繰り返し耳の奥に響いて、気が付けば爪の跡が出来るほどに強く拳を握りしめていた。
(……やっぱり、普通に話せる自信、ない)
二人にならなければ良いのだと、クラヴィスさんのいる扉の方に足を向けたときだ。
「あいつがどうしたって?」
「!?」
予想外に早く背後で聞こえたその声に心臓が飛び出るかと思った。