My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 4
「――あ、あのね」
振り返りながらもやっぱり顔が見れなくて、でもそんな場合じゃないと思い切って顔を上げる。
「アルさんが急に倒れちゃって、額に王家の紋様が……。多分王様を治したのが原因だと思うんだけど、セリーンが笛を吹いても目を開けてくれなくて」
そこまで一気にまくし立てる。
数時間ぶりに見る彼の眉間にはいつも以上に皴が寄っていた。
きっと、ずっと難しい顔で本を読んでいたのだろう。
「……わかった」
その答えに胸を撫で下ろし、私はすぐさま彼から視線を外し扉に向かった。
早く、アルさんの元へ戻らなければ。
「お前、一人でここまで来たのか? セリーンの奴は」
「セリーンはアルさんを看てくれてるよ」
扉に手を掛け答える。
と、すぐ後ろで舌打ちが聞こえた。
「お前は、ここが敵だらけだってわかってんのか」
その、また責めるような言い方にむっとして、扉を見つめたまま言い返す。
「わかってるよ、でも仕方ないでしょ。王子を一人にするわけにいかないし」
「わかってねぇ!」
その怒鳴り声にびくりと全身が強張る。
そんな私に気付いたのか彼はバツが悪そうに息をついて、もう一度小さく繰り返した。
「お前は、なんにもわかってねぇ……」
(ラグ……?)
珍しく弱々しいその声音に振り返ろうとして、手を掛けていた扉が向こうから開いた。
「あの、大丈夫ですか?」
クラヴィスさんが心配そうに顔を覗かせた。