My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 4
「連れてきたよ!」
王子の部屋の扉を開け放つと中の二人はいくらか表情を和らげた。
私はラグを先に通しクラヴィスさんを振り返る。しかし彼はここで、と中には入らず扉を閉めてしまった。――見張りをしてくれるということだろう。
(誰かに今のアルさんを見られたら大変だもんね)
頬を伝う汗を拭って私はラグの後を追う。
「アルさん、どう?」
「あのままだ。笛も何度か吹いてみたが……」
首を横に振るセリーン。
アルさんは床の上ではなくソファに寝かされていた。二人が移動させたのだろう。
ラグはアルさんの傍らに膝を着き、その額を見て顔を顰めた。
「王の間に駆け付けたとき、王の額には角が生えていた。それをこの男が術で消したんだ」
セリーンがあの場にいなかったラグにそう説明し、私も後を続ける。
「でもその後からアルさん調子悪そうにしてて、気にはなってたんだけど……」
と、ラグは私たちにではなく、王子に視線を向けた。
「持ち出していいもんかわからなかったが」
「え? あぁ、構わない」
王子はラグが懐から取り出した書物を受け取るとすぐに頁を捲り始めた。例の王家の呪いについて書かれた書物のようだ。
先ほど王子はこんな事態はどこにも書かれていなかった、そう言っていたけれど――。
「やっぱり、無理に抑え込もうとしたのがいけなかったのかな」
そうセリーンを見上げたときだ。
パンっ!
唐突に上がったそんな音に驚いて視線を戻す。
ラグが、なぜか手を上げていた。