My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 4
――え?
その手がアルさんに向かって振り下ろされ、パンっともう一度同じ音が鳴り響いたところで私は大慌てで声を上げた。
「な、何してんの!?」
先ほどまで血色の悪かったアルさんの両頬に、赤い手形がくっきりと残ってしまっている。
「こういう時でもねーと、思いっきり殴れねーからなっ」
平然とした顔でそんな冗談めいたことを言ってラグは更にもう一発、アルさんの頬を引っ叩いた。
余りのことにセリーンも王子も口が開いたままになってしまっている。
「ラグ!」
「こいつが、そう簡単に死ぬわけねーんだよ!」
怒りをぶつけるように、ラグはもう一度手を振り上げた。
さすがに止めようと手を伸ばしたそのとき、にゅっと下から別の手が伸びた。
「!」
ラグの腕がその手にがっしりと掴まれて――。
「……痛ぇっつーの」
「アルさん!」
目は閉じたままだったが、確かに小さく声を発した彼に私は歓声を上げた。