My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 4
「で、でもセリーンが笛を吹いても解けなかったよ?」
「やはり王の呪いを解くのが先決ということか」
私の問いに答えるように続けたのはセリーン。
彼女は手の中の笛を見下ろし、それを王子へと差し出した。
「そろそろ、覚悟を決める頃合いではないか?」
(セリーン?)
「な、なんのことだ」
動揺した様子の王子をまっすぐに見つめ、彼女は子供を宥めるような優しく落ち着いた声音で言った。
「これを王妃が吹き、王の呪いが解けたとしても、王の母君への愛が嘘になるわけじゃない」
王子の瞳が大きく見開かれる。
「王はもう十分に罰を受けているのではないか?」
「うるさい!!」
王子の絶叫に似た声が部屋の中に響く。
拳がぎりぎりと握られ、その顔は今にも泣きだしそうに見えた。
(あぁ、そうか……)
セリーンの言葉と今の王子の反応で、王子が頑なに王妃様に笛を渡すことを拒んでいる理由がわかった気がした。
王子は多分、王様が心底憎いわけじゃない。
王妃様が笛を吹いて呪いが解けてしまったら、王様の愛する人はもう彼のお母さんではないことになってしまう。
(王子はきっと、それを知るのが怖いんだ)