My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 4


「どういうことだ」

 王子の顔から笑みが消えた。

「朝、街に下りた時にいたんです。踊り子の綺麗な女の人と、ウエウエティルを叩く男の人と、あともう一人マラカスを持った男の人!」

 身振り手振りを交えながら話す私の横でセリーンが続ける。

「確かにいたが、しかしこの国で旅の踊り子はさほど珍しくないんじゃないか?」
「そ、そうなんですか?」

 急に自信が無くなって王子を見る。しかし彼は再び窓の外を食い入るように見ていた。

「母さんだ」
「え?」
「間違いない。だってウエウエティルは仲間のフーガラが作った楽器なんだ」

 私はセリーンと顔を見合わせた。
 フーガラとはウエウエティルを相棒と話していたあの陽気な男の人だろうか。そして、

 “今日は何度かここで踊るからね、その時にはちゃんと見ておくれよ”

 そう言ってウインクしてくれたあの妖艶な美女が、彼の――。

「母さんが、街にいる」

 小さく言ったかと思うと王子は扉へと足を向けた。

「王子!?」

 しまった!
 何年も会っていないお母さんが近くにいると聞いて、彼が落ち着いていられるわけがない。
 私は慌てて追いかけどうにか扉の前に立ちはだかることが出来た。

「退いてくれ」
「だ、ダメです。王子が街に降りたりしたら大変なことになっちゃいますよ!」
「早くしないと街を出てしまうじゃないか!」
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