My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 4
必死の形相の王子をどう説得しようか頭を廻らせていると、彼の背後にセリーンが立った。
「確か、今日は何度かあの場で踊ると言っていなかったか?」
「言ってた! そう言ってましたから王子、そんなに慌てなくて大丈夫です」
「もうすぐ陽が沈む。時間がない、早くそこを退くんだ!」
「私が行こう」
そう言ったのはやはりセリーン。しかし王子はそんな彼女をきっと睨み上げた。
「行ったところでここに連れては来られないと言っているだろう! 母さんと会うには僕が行くしか」
「例の隠し通路は使えないのか?」
セリーンの潜めた声に王子はぴたっと口を止めた。
「そっか! 王子、その通路を使えばこっそりお母さんを連れてくることも出来るんじゃないですか!?」
私も続けて捲し立てると、王子は考え込むようにして視線を落とした。
――当初使うはずだった森の中の小屋。
あそこからならきっと、誰にも気付かれずに宮殿に出入りができるはずだ。そのための隠し通路なのだろうから。
「……母さんは、来てくれるだろうか」
そんな弱気なことを口にした彼に私ははっきりと断言する。
「来てくれるに決まってるじゃないですか! 王子と王様のことが気になってなければ、今こんな近くに来たりしませんよ!」
そうだ。王様が病に伏し、王子が派閥争いで大変な“今”だからこそ、きっとお母さんはすぐそこの街を訪れたのだ。
すると王子は決心したのかぐっと拳を握りもう一度セリーンを見上げた。今度は真摯な眼差しで。
「頼む。母さんを、連れて来て欲しい」
セリーンは優しく、そして力強く頷いた。