My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 4
16.彼の過去
「あいつと初めて会ったのは、あいつが7歳のときだ」
アルさんは再び目を閉じ、ゆっくりと話し始めた。
「ストレッタに入ったばっかであいつガッチガチに緊張しててさ、でもすぐに俺にも周囲の奴らにも馴染んでいった。明るくて素直で、誰からも好かれる存在だったんだ」
まるで別人の話を聞いているようだった。
(ラグにもそんな頃があったんだ……)
ガチガチに緊張した幼い頃の彼を想像してみたら、なんだかちょっと可笑しくて思わず顔がほころんでしまった。
アルさんもその頃を思い出しているせいか、先ほどよりも穏やかな表情で続けていく。
「術の源となる万物の力にも、あいつは羨ましいほどに好かれててなぁ」
――そうだ。
彼には術を使うときにだけ、見せる顔があった。
「ラグって、術を使うときはすごく優しい目をしますよね」
「ん。そこは昔と変わってない」
嬉しそうにアルさんは微笑む。
「――でも、万物に好かれた分だけ与えられる力も大きくてな、まだ小さかったあいつは扱え切れずに良くぶっ倒れてた」
ふと彼の声が蘇る。
それはフェルクで月明かりの下、術の基本を教えてもらったとき――。
“万物の力を感じろ。信じろ。そして、感謝しろ。……オレが昔、お前と同じように上手く力を扱えなかった頃、言われた言葉だ”
(あれってもしかして、アルさんの言葉だったのかな)
「そんなあいつが変わっちまったのは、初めての任務で戦地に赴いたときだった」
“戦地” ――不意に上がったその言葉に胸が嫌な音を立てた。