My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 4
そのとき、表情の見えない小さな彼が脳裏に浮かんだ。
(見えないんじゃない。わからないんだ……)
同じ年の頃何事もなく平和に過ごしていた私には、その時彼が背負ったものなどきっと解るはずがない。
ただ胸の奥が痛かった。
「そんなあいつに俺は“お前は何も悪くない”と言った」
その閉じた瞼の裏には、私と同じように……いや、それよりずっと鮮明に当時の彼が映っているのだろう。
なんとか絞り出したような掠れた声だった。
「“何も出来なかったあいつらがいけないんだ。弱いからああなったんだ。だから、お前が悪いわけじゃない”」
まるで、ラグの言葉を聞いているようだった。
アルさんが唇の端を上げる。
「我ながら酷い言葉だったと思うよ。でも、もうなんでも良かったんだ。あいつが生きていてくれさえすれば、なんでも……。そして、その言葉にやっと、あいつは反応を見せた」
“お前は悪くない”
それが、その時の彼にとってはきっと、とてつもなく大きな言葉だった。
アルさんはゆっくりと目を開け、暗い天井を見上げた。
「やっと顔を上げたあいつは、もう元のあいつじゃなくなっちまってたけどな。それでもあいつは、また立ち上がってくれた」
きっと、その彼が私の知る“ラグ”。