My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 4

 アルさんはそこで気持ちを切り替えるように深呼吸し、私を見た。

「ごめんね、急にこんな話」

 唇を噛んでぶんぶんと首を振る。
 そんな私に彼は言った。

「カノンちゃんには知ってて欲しかったんだ。昔のあいつのこと」

 目を開いて彼の穏やかな瞳を見返す。
 でもすぐにその瞳を見ていられなくなって、私は視線を落とした。
 白く映った自分の手をぎゅっと握って、口を開く。

「ラグが、優しいのはわかります」

 口では色々と言いながらも彼はいつも私や、困っている人たちを助けてくれる。
 現に今だって、王子のために、そしてアルさんのために行動している。

 彼自身は認めないかもしれないけれど、まだ出逢ってからほんの数か月だけれど、その間ずっと一緒にいて、彼の優しさをそばで感じていたから。

(わかっていたはずなのに……)

 どくんと、胸が鳴った。
 それは先ほどまで響いていた嫌な音ではなかったけれど――。

「カノンちゃんがそう言ってくれる子で良かった」

 顔を上げると、アルさんはとても満足げに微笑んでいた。

「あんなことしか言えないやつだけどさ、あいつにとってカノンちゃんが……多分あいつが考えている以上に大事な存在だってこと、わかってやって欲しいんだ」
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