My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 4
「母さんがまだ街にいてくれたらいいんだが……」
やはり落ち着かない様子の王子。
(そりゃそうだよね。久しぶりにお母さんに会えるかもしれないんだし)
そう思ったら微笑ましくて、私は笑顔で言う。
「きっと会えますよ」
「……そうだな」
王子は頷いた。
それから間もなくして扉がノックされ、灯りをお持ちしましたと声が掛かった。
王子は少しだけ扉を開け、ちらっと見えたメイドさんらしき女性に短くお礼を言うとすぐに扉を閉めた。
燭台を手にした王子がこちらを向くと暗闇に仄かなオレンジの光が広がる。
アルさんにはその光が届かないよう気にしながら王子はその燭台を棚の上に置いた。
「どうだ。平気か?」
アルさんはゆっくりと目を開け何度か瞬きをすると、平気ですと答えた。
それを聞いて王子はほっとしたようだった。
ラグがこちらに歩いてくるのを横目に見ながら、そんな王子に訊く。
「王子も、あの……ツェリの姿になると光が眩しかったりするんですか?」
「いや、そんなことはない」
王子が首を振る。
「“人でも獣でもない半端な姿となり果て、王家の血は途絶える”」
そう呟いたのは目の前のアルさんだった。
それは昼間王子が話してくれた王家の呪いの一節だ。
「多分、そういうことなんだろうな」