My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 4
なるべくラグの方は見ないように王子の元へ向かうと、ちっと舌打ちをして彼がこちらに歩いてきた。
すれ違うときも顔は上げられず、彼もそのままアルさんのいるソファへ向かったようだった。その後を追ってブゥが私の横を通り過ぎて行く。
王子はなんだかそわそわした様子で机の横に立った私に訊ねた。
「笛で曲を吹くということは、一度だけ、こう、ぴーっと吹くのではなく連続していくつかの音を出すということだよな」
「は、はい」
「そうか。それでカノン、これを見て欲しいんだ」
「え?」
王子が指差したのは先ほどラグと見ていた例の書物だった。
「これが何だかわかるか?」
私は蝋燭の灯りにぼんやりと照らされたその部分を覗き込み、目を見開いた。
4本の直線の上に黒い丸が転々と並ぶそれは、見慣れたものとは一本線が少なかったけれど間違いなく“楽譜”だったのだ。
「……はい」
「本当か!?」
思わず掠れてしまった私の声に王子が歓声を上げる。
「これは楽譜です。私の知っているものとは少し違いますが、これを見ればどんな曲なのかわかるようになっているんです」
私の言葉に何度も頷く王子。
「楽譜というのか。そうか、これは笛で曲を吹くという意味だったのか!」
興奮したように王子は胸元の笛を強く握りしめた。