My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 4
18.歌と笛
(この曲を吹いて呪いを……)
胸の奥が疼いた。
もう少しで何かに手が届きそうな、そんなもどかしさに胸元を握りしめる。
「なら、ただ単に吹くだけじゃ不完全ってことか?」
ラグの怪訝そうな声。
王子は難しい顔で楽譜を見つめている。
「不完全……じゃあそれで王様は」
「いや、あいつがああなったのは母さんを捨てたからだ」
そこはきっぱりと答える王子。
少し気まずく思いながらも私は訊く。
「王様は、楽譜のことを知っていたんでしょうか?」
「さぁ。あいつとこの呪いについて話したことなんて無いからな」
「そう、ですか……」
何かがわかりそうな気がしたのだけれど。
私はもう一度その楽譜を見下ろし、重ねて訊ねた。
「この書物っていつ頃書かれたものなんですか?」
「記述によると、今から約500年前だ」
「500年前……。ならその笛はもっと前からあるはずですよね。例の王女様の伝説も」
「あぁ。この王国が出来たのが一千年前とも二千年前とも言われているからな。その頃からあった可能性もある」
その古さに改めて驚く。
「おかしくないか?」
掠れた声に視線を向けると、アルさんがソファの背もたれを支えにゆっくりと起き上がろうとしていた。