My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 4
19.書庫塔
王子から笛を借り指先と楽譜とを交互に睨んでいた私はトントンというノックの音にはっと顔を上げた。
セリーンが戻ったのだろうか。
すぐ隣で書きものをしていた王子も音を立てて椅子から立ち上がった。でも、
「兄さま、僕です」
遠慮がちに聞こえてきたのは少年の声。
王子はあからさまに肩を落とし、それから扉に向かった。
「ブゥ」
ラグの小さな声に、その頭に乗っていた小さな相棒が髪の影に隠れた。
それを確認し王子が扉を開けると、デュックス王子とその後ろにフィグラリースさんの姿があった。
「どうした。王に何か」
王子が訊くと弟のデュックス王子はふるふると首を振った。
「いいえ、父さまはあのまま眠っています。あの、兄さまにおやすみの挨拶をと思って」
王様の様子に変わりはないようでほっとしていると、デュックス王子の視線とぶつかった。
「カノン。デイヴィスも、兄さまの部屋にいたのか。控えの間にいなかったから」
「すみません、殿下」
私が慌てて口を開くと同時に上がったその声に驚く。
いつの間にかアルさんがソファから立ち上がり頭を下げていた。
「今一度王陛下の元へ伺わなければと思いながら、書物の解読に夢中になってしまいまして」
王家の呪いにかかり動けなかったとは言えるわけがないけれど、
(立って大丈夫なの……?)