My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 4
「セリーン、遅いな」
沈黙を破ったのはアルさんの小さな小さな声だった。
「そうですね……」
彼女が出発してからもうどのくらい経っただろう。
元々時間がかかるとは思っていたけれど、そう言われると急に不安になってくる。
「……まさか、な」
「え?」
その意味深な呟きにざわりと胸が嫌な音を立てた。
「クラヴィスの、例の噂」
私は目を見開く。
「あいつが今、その隠し通路の入口見張ってくれてるんだろ?」
「ま、まさか」
「どうしたんだ?」
王子の声にぎくりとする。
「い、いえ」
「――戻って来た」
丁度そのときラグが声を上げた。
私が扉に視線を向けるのと、王子が再び立ち上がるのはほぼ同時。
直後少し早いノックの音が聞こえ、王子は緊張した面持ちで扉に向かった。
「殿下、私です」
その囁くような声音に王子は扉を開ける。
そこには敬礼するクラヴィスさんの姿と、しかしセリーンの姿が見えない。
「母さんは」
「セリーンは」
王子と私の声が重なる。
そんな私たちにクラヴィスさんは顔を上げ言った。
「話はあちらで。行きましょう」