My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 4
「凄い仕掛けですね」
「だろう。僕も最初は驚いた」
音がぴたりと止んだところで王子はその笛を更に押し込んだ――ように見えた。
「!」
笛と一緒に目の前の壁が、いや、その一部がくり抜かれたように向こう側に開いていくではないか。
暗がりでわからなかったが、壁の一部が扉になっていたのだ。
そしてその向こうには先の見えない狭い通路がずっと続いていた。
思わずごくりと喉が鳴る。
「行くぞ」
「はい!」
ルバートの隠し通路は土面が剥き出しだったが、ここは完全に人工の壁に囲まれた路だった。
お蔭で進むたびに足音が不気味に響き渡り、すぐそこに迫る闇もあって一人でなくて本当に良かったと思った。
(セリーンは怖くなかったかな……)
ふとそう考えたけれど、こんなことを怖がるようじゃきっと傭兵など出来ないだろう。
「――あの、王子」
「なに」
振り返らずに応えた王子に、私は訊く。
「さっきセリーンが気になることを言っていましたが」
「あぁ、母さんは一度決めたことは曲げない性分だからな。そういうことだろう」
“頑固者”
セリーンが先ほどそう言っていたけれど、王子もわかっているようだ。
「お城まで来てくれるでしょうか……」
つい不安を口にすると王子はふっと笑ったようだった。