My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 4
永遠に続くかと思われた通路に終わりが来たとわかったのは、王子が走り出したからだ。
私たちもそれを追いかけ走る。
通路の終わりはそのまま地上への階段に続いていた。それも駆け足で上って行く王子。
階段が唐突に終わり、現れたのは木の天井だった。
「持っていてくれ」
「はい」
私は王子から手燭を受け取る。
すると彼は天井に両手を掛け、そのまま向こうへと押し上げた。
(あ、ここはそんなに簡単なんだ)
少し拍子抜けした気分で王子の背中越しに徐々に開いていく天井――隠し扉の外を見つめる。
ばたんっと音を立て扉が全て開ききると、王子はすぐさまそこから顔を出し声を上げた。
「母さん!」
そのまま勢い良く飛び出していった王子を慌てて追い、私も顔を出す。
そこは本当にあの小屋の中だった。
朝一度入ったときと同様に椅子に立掛けられたセリーンの愛剣が見え、そして次に視界に入ってきたのはツェリウス王子に抱き付かれた女性の姿。
(やっぱり、彼女が……)
間違いなく、昼間街で見かけたあの美しい踊り子の女性だ。
彼女は驚いたように瞳を見開いて、自分の胸に顔を埋めた王子を見下ろしていた。
「……おまえ、本当にツェリ、なのかい?」
「会いたかった、母さん……!」
くぐもった声。
“母さん”と呼ばれてもまだ信じられないのか、彼女は震える手で王子の両頬に触れ、確かめるようにしてその顔を見つめた。
「まさか、こんなに……」
そう小さく呟きながら、その金の髪を愛おしげに撫でる。
「立派になったねぇ、ツェリ」
「母さん……!」
感極まったようにもう一度抱き付いてきた息子を、彼女は今度こそ強く抱き締めた。