My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 4
21.愛の行方
「お前を身籠ってすぐだよ。私がこの街を出たのは」
お腹に手をやり、彼女は続ける。
「何も告げずに出ちまったからね。あの人はそれは驚いたろうと思うよ。私が妊娠していたことも、知らなかっただろうからね」
(そんな……)
なら王様は、急に愛する人を失ったことになる。
「なんで」
掠れた声で訊ねる王子。
彼女はふっと笑い、言った。
「急にね、恐ろしくなったんだよ」
(恐ろしく?)
「あの人は、私を王妃に迎えたいと言ってくれていた」
王子の指先が、ぴくりと震える。
「私もね、純粋に嬉しかったさ。王宮での煌びやかな生活には憧れていたしね。女なら、誰だってそう思うものだろう?」
「! は、はい」
急にこちらに視線が飛んできて、私は慌てて頷く。
――確かに、女の子なら誰だって一度は夢見るだろう。お姫様になりたい。綺麗なお城で暮らしてみたいと。
彼女はそんな私に微笑み、その長い睫毛を伏せた。
「でもね、いざお前を身籠ったら急に怖くなっちまったんだ。……そんな生活、私には到底無理だと思った」
そう話すお母さんの顔が、王子のことで悩んでいたあの夜のドナと重なった。
「だから、私は逃げ出したんだよ。あの人から」
「でも! だって、あいつはそんなこと一言も……」
最後は言葉にならず、王子はそのまま俯いてしまった。