My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 4

 自分にそう言い聞かせてぱっと目を開けると、丁度お母さんがこちらを見ていた。

「あんたたちも、ありがとうね。これからも息子のことをよろしく頼むよ」
「は、はい」

 慌てて返事をするとお母さんは満足げに微笑んだ。
 でもそこで気づく。

「あ、でも、帰りどうしましょう。街まで一人じゃ帰れないですよね」

 ここに来るときはセリーンが一緒だったけれど。ここは鬱蒼とした森の中。しかも夜中だ。
 連れてくることばかりで、帰りのことを考えていなかった。――しかし。

「なぁに、平気だよ。ここへは昔、よく一人で来ていたからね。もう慣れっこさ」

 そうして昼間の様にぱちんっとウィンクしてくれた。

(それって……)

「さ、ツェリ。もうお戻り」

 言われ、ゆっくりとお母さんから離れる王子。

「……母さん」

 彼は真剣な眼差しを母に向けた。

「僕は必ず、この国の王になる。母さんが誇れるような立派な王になってみせるよ」

 するとお母さんはふふと笑った。

「お前なら大丈夫だ」
「え?」
「街でね、お前の評判は聞いたよ。政に、平民の目線で意見しているんだってね。皆お前に期待していたよ」

 そう話すお母さんはとても誇らしげで、王子もそこで漸く、はにかむような笑顔を見せた。

「その分、敵も多いんだろうけどね……。私は、どこにいてもお前のことを一番に思っているよ。――体に、気をつけてな」
「うん。母さんも」
「あぁ」

 そこで王子はくるりと彼女に背を向けた。

「城に戻ろう」

 そう言った彼の目は可哀想なほどに真っ赤で、私は頷きすぐに視線を外す。
 ラグの姿は既に無く、追いかけるようにして階段を駆け下りる。
 そのすぐ後に王子も階段を下りてくるのがわかった。

 木の扉が閉まる、寸前。

「幸せにね」

 聞こえたその声に、王子の息遣いが大きく響く。そして。

「はい!」

 王子が返事をした直後、扉はバタンと閉まった。


 ――元来た通路を戻る間、王子の方は一度も振り返れなかった。

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