My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 4

「でも、ここ塞いだって小屋が」
「ちょっと待て」

 そのとき王子が声を上げた。

「え?」
「動く」

 言うなり王子は笛をがちゃりと回した。
 天井から本棚が動くあの振動音が聞こえてきてほ~っと肩を落とす。
 ラグも小さく息を吐き壁から身を引いた。

「ガタが来てんじゃねーのか」
「いや、そんなことはないと思うんだが……」

 不安げに眉を寄せ天井を見つめる王子。
 そして振動音が止む。

 私たちは顔を見合わせ、ラグを先頭に階段を上り始めた。
 間もなくしてぽっかりと空いた出口が見えた。
 ラグが慎重にそこから顔を出す。

「誰もいない」

 小さく言ってそのまま外へ出るラグ。
 その後に王子、私と続いて隠し階段から書庫塔へと出た。
 ふぅと息を吐いて辺りを見回すが、特に異常はないようだ。

「もしかしてクラヴィスさん、私たちが気になってちょっと中を覗いたんじゃないですか?」

 明るく言う。しかし、

「……なら、いいんだがな」

王子はそう低く言って本棚の奥に笛を差し込んだ。

 元の位置へと移動していく本棚を見ながら思う。

(噂のことを言っちゃって、マズかったかな……)

 本棚の動きが止まり、最下段にあった分厚い本を2冊元の段に戻した王子はすぐさま扉へと向かった。

「クラヴィス!」

 扉を開け放つと同時、従者の名を呼ぶ王子。しかし。

(クラヴィスさん……?)

 そこにいるはずの彼の姿はなかった。
< 207 / 330 >

この作品をシェア

pagetop