My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 4
「でも、ここ塞いだって小屋が」
「ちょっと待て」
そのとき王子が声を上げた。
「え?」
「動く」
言うなり王子は笛をがちゃりと回した。
天井から本棚が動くあの振動音が聞こえてきてほ~っと肩を落とす。
ラグも小さく息を吐き壁から身を引いた。
「ガタが来てんじゃねーのか」
「いや、そんなことはないと思うんだが……」
不安げに眉を寄せ天井を見つめる王子。
そして振動音が止む。
私たちは顔を見合わせ、ラグを先頭に階段を上り始めた。
間もなくしてぽっかりと空いた出口が見えた。
ラグが慎重にそこから顔を出す。
「誰もいない」
小さく言ってそのまま外へ出るラグ。
その後に王子、私と続いて隠し階段から書庫塔へと出た。
ふぅと息を吐いて辺りを見回すが、特に異常はないようだ。
「もしかしてクラヴィスさん、私たちが気になってちょっと中を覗いたんじゃないですか?」
明るく言う。しかし、
「……なら、いいんだがな」
王子はそう低く言って本棚の奥に笛を差し込んだ。
元の位置へと移動していく本棚を見ながら思う。
(噂のことを言っちゃって、マズかったかな……)
本棚の動きが止まり、最下段にあった分厚い本を2冊元の段に戻した王子はすぐさま扉へと向かった。
「クラヴィス!」
扉を開け放つと同時、従者の名を呼ぶ王子。しかし。
(クラヴィスさん……?)
そこにいるはずの彼の姿はなかった。