My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 4
22.愛の旋律
再び足を踏み入れた王の寝室は、王子の部屋と同じく蝋燭の灯りひとつだけが頼りなく揺れていた。
昼間とは違って中には王様と王妃様以外、誰もいないようだ。
(やっぱりクラヴィスさんもいないか……)
「ツェリウス、どうしましたか?」
聞こえてきた、か細い声。王妃様の声だ。
それでもその声は昼間よりも大分落ち着いているように思えた。
「王のことで話があってまいりました」
王子は王の眠るベッドへと近づいていく。
緊張を覚えながらもそれについていこうとして。
「オレはここにいる」
「え?」
その低い声に足を止め振り返る。
ラグは扉のすぐ横の壁にもたれた。
「なんで」
潜めた声で訊く。
「……オレは、あまり近づかないほうがいい」
そういえば昼間も彼はそんなことを言ってここへは来なかったのだ。
すると彼は不機嫌そうに指の背で自分の額を軽く叩き、やっと理解する。
(そっか、呪いのこと気にして)
「カノン、こちらへ」
「あ、はい」
王子の呼ぶ声に、私はラグの方を気にしつつもベッドに足を向けた。
王妃様は昼間見た時と同様に、王様の枕元に置かれた椅子に腰かけていた。
(いつも、遅くまでこうやって傍で看ているのかな)
視線をベッドに移すと、王様は静かに寝息を立てていてほっとする。
全身に広がる複雑な紋様が無ければ、呪いに侵されているなんて思えないほどその寝顔は安らかだ。
ぎゅっと楽譜の書かれた書物を抱きしめ、私は王子の隣に立った。