My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 4
「まずこの穴とこの穴を指で塞いでください」
震える指先が私の言う通りに動いていく。
間違えては大変だ。私は何度も楽譜と王妃様の指先とを見返し言う。
「その状態で吹いてみてください」
ピィーっと、最初の音が響く。先ほどよりも低い音だ。
そしてすぐに次の音に取り掛かる。
「次は、この指を――」
一音一音ゆっくりと笛が――王妃様がメロディを奏でていく。
王様に変化が現れたのは、時間をかけて漸くこの曲最後の音が部屋に響いた時だった。
「あ!」
思わず声が漏れた。
王様の顔に刻まれていた一筋の金の紋様が、まるで金粉が舞うようにして消えていったのだ。
「いいぞ!」
その歓声は王子のものだった。
「このまま続ければ、全ての紋様が消えるはずだ」
興奮した様子の王子に強く頷き、私は王妃様に視線を戻す。
「あとは今の繰り返しです。頑張りましょう!」
王妃様の顔にも希望の笑みが浮かんでいた。
「えぇ!」
それから、何度も何度も繰り返し同じメロディが王の寝室に響いた。
その度に王様の身体から紋様が消えていく。
王妃様の吹き方も徐々にスムーズになっていき、10回を超える頃にはもうすっかり“演奏”になっていた。
そうなってみてわかる。
(なんて、優しくてあったかい旋律)
まさしく、愛のメロディだ。
――そして。
「これで、最後だ」
王子が呟く。
王様の身体で唯一まだ光を放っていたのは額の紋様だった。
だがその輝きも王妃様が最後の音を吹き終わり笛から口を離すと同時にキラキラと舞うようにして消えていった。
そして再び蝋燭の灯りひとつだけの暗い部屋に戻る。
ごくり、と誰ともなく息を呑む音が聞こえた。
「あなた……?」
王妃様が小さく呼びかける。
すると、ぴくりと確かに王様の瞼が動いた。
「!」
「あなた!」
ゆっくりと、王様の目が開いていく。
その瞳が王妃様を捉え、
「……アンジェリカ?」
そう、愛する人の名を呼んだ。