My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 4
「はい! わたくしです。ずっとここに居ります!」
涙声で王様に話しかける王妃様。
すると大きな手がゆっくりと王妃様の頬に触れた。
堪らず王妃様はその手を両手で強く握り締める。
「アンジェリカ」
もう一度その名を口にしながら王様は柔らかく微笑む。
(!)
その笑顔はドナを前にしたときのツェリウス王子に驚くほど良く似ていた。
「心配を掛けたな。もう、大丈夫だ」
しっかりとしたその声音に、王妃様は感極まったように王様の首に抱き付く。
それを見て、私も吐息と共にずっと力の入っていた肩を落とした。
王様は助かったのだ。
良かったですね、そう言おうと王子を見て、口を噤む。
てっきり王子も安堵の表情を浮かべているものと思ったけれど。
(王子、緊張してる……?)
真一文字に口を結んだその視線の先では、嗚咽を漏らす王妃様の頭を王様が優しく撫でていて。
――そうか、と気づく。
王様の呪いが悪化したのは、王子が笛を手放さなかったためだ。
王様もそのことは解っているはずだと、彼は言っていた。――罰を、受け入れるつもりなのだろうと。
しかしつい先ほど、お母さんの件は王子の思い違いであったと判明した。
(王子、どうするんだろう)
と、そのとき王様が王子を見上げた。
はっきりと王子の顔が強張る。
「ツェリウス」
「は、い」
「ありがとう。……すまなかった」
その全てわかっているかのような感謝と謝罪の言葉に、王子が目を見開く。
でもすぐに彼は顔を伏せ、強く首を横に振った。
王様はそんな息子を見て、もう一度優しく微笑んだ。
……おそらくは久しぶりの、それを思うと余りにも短い親子の会話。
でも、とてもあたたかく感じた。
私は扉の方にいるラグを見る。
その視線に気付いた彼に、私はこっそりとピースサインを送った。