My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 4
「いいんじゃないか」
ラグの方を見るがやはり目を開けてはくれず、特に文句はないということだろうと私は窓の方へ足を向けた。
「ブゥ、今開けるからね。外とっても綺麗なんだよ」
重いカーテンを少しだけ開ける。
やはり外はまだ暗かった。しかし月が出ているのか空はほんのりと明るい。
そういえば書庫塔でも小窓から淡い光が差し込んでいた。
鍵を外し、少しだけ窓を押し開けるとひんやりとした夜風が顔に触れ思わずひとつ深呼吸する。
と、ブゥが私の顔の横をすり抜けていった。
「いってらっしゃい。お腹いっぱいになったら戻って来てね」
「ぶぅ~」
嬉しそうに鼻を鳴らし、ブゥの小さな体はすぐに夜の闇に紛れてしまった。
ふふと笑い、私も一歩バルコニーに降りる。
そこには控えの間と同じように白いテーブルと椅子が置かれていた。王子もここに座ってお茶したりしていたのだろうか。
空を見上げれば真ん丸に近い月が出ていて、やっぱりと嬉しくなる。
丁度そのとき心地良い風が吹き抜け、私は目を閉じもう一度大きく息を吸った。
「あっれぇー?」
唐突に。
そんな明るい声が聞こえて目を見開く。
「ふっふー」
その覚えのある高い笑い声に、心臓がどくりと脈打つ。
「見覚えのある顔が出てきたと思ったら、や~っぱり」
穏やかな月明かりに影が差した。
「あの時、ラグ・エヴァンスと一緒にいたおねぇさんだ」
逆さまになった黒い少年が、月を背ににっこりと嗤っていた。