My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 4

23.来訪者


 くるりと空中で身体を回転させ、バルコニーの手すりに音もなく両足が着く。
 ぱさりと黒いフードが重力に従い落ち、あどけなさの残る顔が明らかになる。

 ねぇ、と彼が笑う。

「もしかしてそこに、ラグ・エヴァンスもいる?」

 小首を傾げるその仕草は可愛らしいのに、喉が震えて答えることが出来ない。
 先ほどから頭の中では煩く警鐘が鳴り響いているのに、こちらを射貫く爬虫類を思わせる瞳から目が離せない。

 ――忘れもしない。
 その瞳も、幼い顔も、特徴的な笑い声も、忘れられるわけがない。

 ルルデュール。

 彼は、少年の姿をした“暗殺者”だ。

「カノン!」
「!」

 そのとき背後で上がった呼び声に、漸く思考が高速で動き出す。

 ――逃げなきゃ!

 窓に掛けたままだった手に力を入れ私は部屋に引っ込みガシャンと窓を閉める。

「今の声は」

 震える手で鍵を掛けカーテンまで閉め切ったところで振り返るとセリーンもラグも窓のすぐ傍にいた。
 その表情を見てわかる。二人とも気づいている。
 今更、足が震え出す。

「あ、あの子が」

 やっと出た言葉が言い終わらないうちに、背後の窓がガタガタと音を立てはじめた。

「避けろ!」

 ラグの鋭い声。
 なのに私は咄嗟に窓の方を振り返ってしまった。
 ちぃっという舌打ちと共に腕が強い力で引っ張られる。
 バランスを失い私の身体は引かれるままその力の元へ倒れこんだ、直後。

 ガシャーン!!

 凄まじい音が耳をつんざいた。
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