My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 4
彼の姿を見るのは、タチェット村の宿以来だ。
「やぁ、カノン。もう大丈夫かい?」
「は、はい」
でも見られていたのだとわかって、また顏が熱くなる。
彼はにっこりと笑って、すぐ横で倒れているルルデュールに視線を落とした。
「それにしても、厄介な相手に目を付けられてしまったねぇ」
憐れむような目をした彼にラグが噛み付く。
「誰のせいだと思ってやがる! で? てめぇのいる場所に近づいたのか、どうなんだ!」
そうだ。彼はもっと自分に近づいたらどこにいるか教えてくれると、そう言っていた。
「ふふ、そうだね、少しは近づいたかな?」
「本当ですか!」
「うん、きっともうすぐ会えるよ。そうしたら、君を元の世界に帰してあげるね」
その笑顔にほっと胸があたたかくなる。
きっと、帰れる。
元の世界に――。でも。
私は足に力を入れて立ち上がる。
「あの、クレドヴァロールのお城で楽譜を見つけたんです」
「うん」
優しく頷くエルネストさん。
楽譜を持っているという彼なら、知っているかもしれない。
「もしかして、昔はこの世界も歌で溢れていたんじゃないかって思って」
すると彼はふっと意味ありげに笑った。
「そうだよ。この世界も以前は君の世界と同じように歌と音楽で溢れていた」
――やっぱり!
予想は確信へと変わり、そのまま私は勢い込んで訊く。
「なんで、なんで歌は不吉とされてしまったんですか!」
「銀のセイレーンが現れたから」
「え……」
「世界を破滅させるという銀のセイレーンが、この世界に現れたからだよ」
それは幾度となく聞かされていた話。
――でも、エルネストさんの言い方にどこか違和感を覚えた。