My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 4
と、ラグが溜息を吐きながらルルデュールに視線を向けた。
緊張が走る。パケム島で止めを刺さなかったから、こうして彼はまた私たちの前に現れたのだ。
「仲間は来なかったな」
「そ、そうだね」
「歌が効いてりゃ、忘れてるんだよな?」
「うん、多分……」
「……なら、このまま転がしときゃいいな」
面倒そうなその声を聞いてほっとしていると、ラグがこちらを振り向いた。
視線が合って瞬時に先ほどのことが――その温もりが蘇る。
「戻るか」
「う、うん」
いつもと変わらないその低いトーンに私は視線を外すように深く頷いた。
(な、なんか、顏が見れない!)
だがそのとき視界にラグの足が入って、疑問に思うよりも早くひょいと身体を持ち上げられた。
「!?」
見上げればすぐそこにラグの横顔があって心臓が飛び上がる。
「跳ぶぞ。掴まってろ」
そして優しい声音が続く。
「すまない、少し力を貸してくれ。――風を此処に……!」
全身が風に包まれる。
瞬間、ルルデュールが起こした風の中を思い出しぎゅっとラグの服を掴む。
「大丈夫だ」
小さくそんな声が聞こえたかと思うと、私とラグは夜明け前のまだ暗い空へ飛び上った。
強い風の中ではあるけれど、息苦しくはない。
――そうだ。いつも、ラグの風の中は優しかった。
私は安心して身を任せる。
ふと見下ろせば、木々の合間にルルデュールの体が小さく見えた。
仲間は来なかった。ということは今回のことは本当にルルデュールが個人的にしたことなのだろうか。
どうか次に目を覚ました時には、ラグのこと、そして私のこともキレイさっぱり忘れていますように。――そう、願わずにはいられなかった。