My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 4
「あぁ、これか」
「!」
気付けばすぐ真横にラグの顏があって驚く。
慌てて視線を楽譜に戻しタイトルらしき綴りを指差す。
「こ、これは何て書いてあるの?」
「“遠くのあの人へ”」
「遠くの……」
恋の曲だろうか。
離れた場所にいる愛しい誰かへ向けた……。
曲の長さに、その人への想いの強さが感じられた。
「――お前も、早く帰りたいよな」
「え?」
傍らで立ち上がりながら言ったラグを見上げる。
すると彼は私を見つめ続けた。
「お前はどうする?」
「どうするって……」
「ここに残るか?」
私は目を見開く。
「そうやって探してりゃ、いつかお前の欲しいもんも見つかるかもしれねーぞ」
「嫌だよ!」
咄嗟に出ていた強い否定の言葉に、ラグはびっくりしたようだった。
――昨日の会話を思い出す。
この書庫で私が元の世界に戻る方法が見つかったらどうするのか。
そう訊いたセリーンに、ラグは「好きにすればいい」――そう答えた。
急に突き放された気がして、すごくショックだった。
でも、私は……。
「私だけ残るなんて絶対に嫌。一緒に行こう? エルネストさんに会いに」
必死な想いで言うと、ラグはパっとこちらから視線を外してしまった。
「お、お前が、それでいいなら……」
つっけんどんな言い方。
でもその耳が赤くなっていることに気付いて、なぜかとてもほっとして……。
「うん!」
私は満面の笑みで頷いた。