My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 4
「よし、じゃあ頼むぞ、ブゥ!」
「ぶっ」
アルさんの襟元に翼を引っ掛けたブゥが威勢よく鼻を鳴らした。
お城の中で誰かに会ってしまったとき、すぐに胸元に隠れられるようアルさんがその場所を指定したのだ。
(可愛いし)
「お前も、元に戻ったらすぐ下りて来いよ」
「わかってる!」
セリーンの腕から出ようとまだもがきながら怒鳴るラグ。
――やはりラグは元の姿に戻らないと動けないということで、アルさんと王子とブゥでクラヴィスさんを捜しに行くことになったのだ。
「気を付けてくださいね」
「あぁ!」
笑顔で手を振り、アルさんは王子と共に部屋を出ていった。
螺旋階段を下りていく足音を聞きながら私は二人の方を振り返る。
「無事だといいね、クラヴィスさん」
「そうだな。夜が明ければドゥルスも登城するはずだ。きっと助けになってくれるだろう」
まだ外は薄暗いが、そろそろ夜明けだ。
昨日出会ったドゥルスさんの豪快な笑顔を思い浮かべ私は頷く。クラヴィスさんの上司であり騎士団長である彼が協力してくれたらとても心強い。
だがそのときセリーンを見てハっとする。
「そうだ! セリーン、さっき顏に傷……あれ?」
先ほど飛んできたガラス片で切れた傷が彼女の頬にあったはずなのに見当たらない。確かに赤く血が滲んでいたのに。
「……メガネに治された」
「え」
憎々し気なセリーンの声。腕の中の小さなラグもその顔を見上げびくっと顔を引きつらせている。
「要らんと言っているのに、無理矢理にな」
「そ、そうだったんだ」
アルさんのことだから、セリーンの顔に傷なんて許せなかったんだろうけれど。
(きっと大変だったんだろうなぁ、アルさん……。でも、良かった)
セリーンは気にしていない様子だったけれど、やっぱりその綺麗な顔に傷は似合わない。