My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 4
ラグをみしみしと締め付けている彼女を見て私は慌てて話を変えることにした。
「お城を出るなら、フォルゲンさんのこともその前になんとかしないとね!」
他のお医者さんたちと一緒にもう街に帰ってしまったかもしれないけれど。
「城を出る?」
「あ、うん」
不思議そうに訊かれ、その腕の力も弱まったみたいでほっとしつつ私は先ほどエルネストさんが現れたこと、そしてここにはラグの欲しい情報は無いらしいことを話した。
「そうだったのか。それは残念だったな?」
「あぁ、すこぶる残念だ! だから嬉しそうに頬を寄せるな!!」
「それに、ラグが名前を知られたからって……」
私が小さく言うと、セリーンは一瞬瞳を大きくし腕の中の彼を見下ろした。
「またお前はそんないじらしいことを……。大丈夫だぞ? 誰に何を言われようと私がついているからな!」
「誰も頼んでねぇ!」
「私だけではない」
セリーンが酷く優しげな声音で続けた。
「お前にはカノンも、あのヘタレメガネも、ブゥもいるだろう。だから、心配するな」
ぴたりと、ラグが抵抗を止めた。
(セリーン……)
「――だ、誰も心配なんかしてねーんだよ!」
結局、彼はそう大きく怒鳴り、再びじたばたともがき始めてしまった。でも。
「だから、いい加減に放しやがれーーー!」
「い・や・だ♪」
そんないつもの二人のやりとりを見ていて、胸がじんわりとあたたかくなる。
――そう。セリーンもアルさんもブゥも、そして私も。
ラグが周りからどう思われていようと、どう呼ばれていようと、離れる気はない。
ラグにとったら、迷惑なのかもしれないけれど。
でも、私たちがいることで少しでも彼の抱えているものが軽くなったなら。
まだ腕の中で暴れている小さな彼を見ながら、そう願っていた。
――塔の中に王子の怒声が大きく響いたのは、この時だった。