My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 4
彼を医者だと思いこんでいるフィグラリースさんは驚くはずだ。
そのままアルさんは腕で剣を薙ぎ払うと相手の懐に入り込みその腹に拳を打ち込んだ。
一瞬のうちに決着がついてしまった。
フィグラリースさんは剣を取り落とし、力なくアルさんの肩にもたれかかった。
「はやっ」
思わず小さく声が漏れていた。
後ろの兵士たちも一瞬怯んだようだったが声を上げながら一斉にアルさんに斬りかかった。
だがアルさんはフィグラリースさんの身体を横たえ落ちていた彼の剣でその刃を受け止めた。
またしても高い音が塔の中に響く。
そしてアルさんは気合とともに彼らを蹴散らした。
「おいおい、仲間まで一緒に殺す気か?」
剣先を兵士に向けアルさんは言う。
「長剣は扱い慣れてないもんでさ、間違って斬っちゃったらごめんな」
その後も見事だった。剣は盾のように使い攻撃は専ら拳と脚で、あっと言う間にその場にいた兵士たちを全身昏倒させてしまった。
これまでそうだったように、てっきり術で応戦すると思っていた私は彼がラグのように術を使わなくとも強いことを知った。
――彼を育て上げたと言われるアルディート・デイヴィス教師。
そんな誰かの台詞が蘇り、隣で抱えられている小さなラグを見る。
彼はさもつまらなそうな顏で先輩であるアルさんを見下ろしていた。
「あちゃー、買ってきてもらった服が台無しだな」
そんな声に視線を戻せばアルさんが破れてしまった長衣の袖口を見ていてなんだか気が抜ける。