My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 4
「下りるぞ」
「!」
その低い声と同時に上がったセリーンの舌打ちにぱっと後ろを振り向くと、元の姿に戻ったラグがいた。
目が合った途端、また全身に緊張が走る。
「も、戻ったんだね」
どうにか視線は外さずにそれだけ言うと、彼はああと短く頷き先に螺旋階段を下りていった。
その後ろ姿を見送りながら胸を押さえる。
(なんで、こんな……)
「どうした、行かないのか?」
傍らに立ったセリーンを慌てて見上げる。
「う、うん! 行こう」
「……また何か、あの男に言われたか?」
階段を一段下りたところで訝しげに訊かれどきりとする。
セリーンが考えているような、嫌なことは言われていない。
ただお礼を言われて、笑顔を見せてくれて、それで――。
「い、言われてないよ!」
小声で答えながら手を振る。
――まさか抱きしめられたなんて言えるわけがない!
(それにあれは、単に泣いてる私を慰めてくれただけで……)
「っていうかね、さっき仲直り出来たんだ。だからもう大丈夫。心配かけちゃってごめんね」
「いや、構わないが……。そうか、良かったな」
「うん」
笑顔で頷き、再び階段を下り始める。と、
「仲直り、か」
背後でセリーンが小さく笑った。