My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 4
「その方がドナが安心するだろうからって」
「それよりも王弟妃というのは何だ。弟の妃になれとでも言われたのか?」
「そ、それは王子のただの冗談!」
ぶんぶんと手を振り答える。
そうだ、あのときセリーンはいなかったのだ。
彼女はふぅと小さく息を吐く。
「ならいいが……あの王子。カノンにまでそんな頼み事をしていたのか。それでカノンはどう答えたんだ?」
そう訊かれ、私は首を振りながら視線を落とす。……なんとなく、二人の顔が見られなかった。
「答えられなかったの。だって私は、帰るつもりだし」
――そう。私は元の世界に帰るつもりで。
そのためにここにいるのだから。
私は顔を上げて苦笑する。
「王子もあくまで帰れなかったときの話だからって」
「そうか」
セリーンがそんな私の頭に優しく手を乗せた。
「そうだな。それがカノンの目的だものな」
「うん」
頷く。
私の目的は帰るために、エルネストさんに会いにいくこと。
セリーンと、そして、ラグと一緒に。
ふと視線を移すと、彼はもうこちらには興味無さそうにまだ目を覚まさないフィグラリースさんを冷たく見下ろしていた。