My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 4


 書庫塔を出て廊下を歩きながら気付いたことがあった。
 先ほどあんな騒ぎがあったというのに、城内は何事もなかったかのように静かだ。

(王子様の部屋が襲撃されたっていうのに……)

 王子がうまく誤魔化していた――これもそのせいなのだろうか。


 この国の宰相、プラーヌスの執務室兼寝室はエントランスホールにほど近い位置にあった。

「答えてください、じいさま!」

 扉が開けっ放しになっているせいで、デュックス王子の泣きわめくような怒声が廊下にまで響いていた。

 遅れて私たちが部屋に入ると、プラーヌスは酷く慌てふためいた様子でデュックス王子を宥めていた。
 流石に寝巻姿ではないものの昼間会った時と比べるととてもラフな格好をした宰相。その姿は駄々をこねる孫に困り果てる、どこにでもいる“おじいちゃん”にしか見えない。

 それを見守るツェリウス王子とアルさん、そしてフィグラリースさん。
 更には。

「おやおや、皆さん御揃いで」
「!?」

 プラーヌスの背後に、黒い人影があった。
 その低く冷たい声には聞き覚えがあった。
 ルルデュールの師であり、アルさんの友人だったという、確か名前は――。

「サカード。やっぱお前も来てたのか」

 そう唸るように言ったのはアルさんだった。
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