My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 4
「この者らには他にやらねばならぬことがあるらしい。それに何より、ユビルスはここから近い」
「…………」
「それとも、ユビルスは暗殺のみを請け負う機関なのか?」
「……ふっ、はははははっ!」
急に、天井を向いて笑い出したサカードさんにびっくりする。
二人の王子も、友人だったというアルさんも目を丸くしている。
ふーっと長い息を吐きながら視線を戻し、口元に笑みを浮かばせたまま彼は言った。
「……まさか。そんなことはありません。わかりました。帰ったら学長に伝えましょう」
「よ、よろしく、頼む」
「ですが、忠告しておきますよ」
その言葉に、ツェリウス王子は再び顔を引き締めた。
思わずごくりと唾を呑み込む。
ゆっくりとその瞳がアルさんを見た。
「術士が皆、そこの彼と同じだと思わないほうがいい。彼は術士の中でも、かなりの変わり者ですよ」
「――ちょ、おいサカード! そりゃどういうことだ!」
すかさず突っ込むアルさん。
「わかった。心得ておこう」
「殿下!? わからなくていいんですよ! 俺はごく普通の術士ですって!」
心外といった顏で王子に詰め寄るアルさんを見て、またサカードさんが笑った気がした。
それを隠すかのように、彼は先ほどよりも恭しく頭を下げた。
「それでは、今度こそ私は失礼します」
「あぁ。良い返事を待っている」
そしてサカードさんはこちらに背を向け歩き出した。
「サカード!」
その背中にアルさんが声を掛ける。
「俺からも、よろしく頼む」
「……えぇ。またどこかでお会いできることを楽しみにしていますよ。アルくん」
「! ――あぁ!」
そうして、サカードさんはバルコニーへと姿を消した。